環境のよい鎌倉で暮らしたいーー都内のマンションから鎌倉・由比ガ浜のマンションに移り住んだことが、この住まいを建てるきっかけになったというオーナーご夫妻。子どもたちがもっとのびのびと過ごせるよう「家を建てたい、どこに頼もう」と模索する中、邸宅巣箱のウェブサイトに辿り着いた。早坂に会って土地に合わせたプランを聞き、その帰り道には依頼することを決めていたという。「結果、100点満点の家になりました。というよりも、200点、300点です」と笑顔で話す。家づくりの当初から驚いたのが、「私たちの隠れた要望をくみとる力」だといい、互いの信頼が積み重なっていく中、住宅が完成に至った。
そして北鎌倉の家に2020年1月から居住し、4年が経過。なんとオーナーご夫妻は、より深い緑を求め、長野と山梨の県境である小淵沢に引っ越すのだという。一番の心残りは「この家を手放すこと」なのだそうだが、うれしくも悲しくも次の住み手は早々に決まったそうだ。
この興味深いタイミングで、設計した早坂を交えてインタビューを決行。「家づくりで印象深かったエピソード」「住み心地について」「すぐに買い手が決まったことをどう思うか」など、率直に聞いてみた。
K:施主(夫) S:施主(妻)
K: 鎌倉をよく知っている建築家さんがいいな、というのがまず念頭にありましたが、夫婦で住宅雑誌を見てリサーチもしていました。そんな中、雑誌に掲載されていた邸宅巣箱さんの住宅が目にとまったんです。ネット検索でホームページを見つけたら、鎌倉に精通しているうえ、「センスがいいな」「丁寧さを感じるな」とピンときました。つくりたい家、やりたいことにドンピシャな感じがしてコンタクトをとりました。
S: 土地ありきの段階でしたので、お会いしたときに「眺望を生かした家にしたい」とお伝えしました。立地を確認してもらって、そのあとにプレゼンをしていただきました。その際のプレゼン資料の表紙の色合いからして、絶妙なグレージュで惹かれましたね。私たちの好みのトーンだったので驚きましたし、期待が高まったのを覚えています。
S: 2つ出してくださいました。まずA案は、私たちがお話しした通りの「1階リビングで、吹き抜けドーン」をとり入れていただいたものでした。B案は「2階リビングで、眺望のよさが際立つ」という、この土地ならではのプランでした。なにこれ! となりましたね。とてもカッコよかったので。
K: 2つを比べると、圧倒的にB案でした。1階リビングだとフェンスが気になってもったいないかもしれない、とも。3メートル目線が上がる2階リビングにしたほうが、景色の見え方が違いますよ、と。専門的なことはわからない僕たちだけれど、要望はしっかりとある。そこをくみとって提案してくれていると感じました。この先もきちんと形にしていってくれるだろうな、と確信しましたね。
早坂: こういうお話が聞けて、とてもうれしいです。確かに要望はくみとれるほうかな、と思います。いま2階リビングからこの景色を見て、改めて眺望を生かせていると感じています(6mの大窓からは北鎌倉の山のパノラマ。遮るものがないよう計算された成果)。
S: そもそもミーティングの回数が多かったように思います。2週間に1回のペースのときもありました。私たちの内装に対する色へのこだわりが強かったからかもしれませんが、丁寧に対応してくれました。
K: 例えば、建具はありものではなく塗りなので、色見本をたくさん出していただきました。特に天井は垂木(たるき。屋根材や下地を支える重要な骨組みの木材)と板(ラワン合板)で塗装を変えていただいて、色合いを並べて比べたことが記憶に残っています。木材ごとに色の配合を変えて同色になるように調整いただいたり、微妙に色合いが違うパターンを何種類か出していただいたり。
早坂: そこは結構、慎重に行いました。職人さんに数多くのフィードバッグをして色を変えてもらい、何度か木の端を持参してお二人に見てもらいました。
S: サンプルの木をスーツケースの中に何本も入れて、早坂さん自ら運んできてくださいました。そこそこ大きかったので、大変だったと思います。感謝しかないですね。
S: 私たちは、色へのこだわりが本当に強かったんです。
K: 内装の色で家の印象がだいぶ変わると思っていたので、何ともいえないベージュ系を目指しました。ちょっとのトーンの差で雰囲気が決まりますから。
S: トーンといえば、LDKの床の素材感やグレーの色合いも気に入っています。トイレの床をあえて同じ素材にしたのも正解で、不思議と落ち着く空間に仕上がりました。
早坂:当初は「トイレの壁や床をアクセントカラーにするのはどうでしょうか?」と。
早坂さんはハッキリと「この家の小さなスペースに色を入れるのは美しくない」とおっしゃって。まろやかで優しい雰囲気の語り口なので、「そうなのかな」とスッと頭に入ってきたのを覚えています(笑)。結果、早坂さんのアドバイス通りにしてよかったです。
K: キッチンは木目を出しつつフラットなデザインがよいのでは、と早坂さんから提案がありました。僕はよいと思いましたが、妻はヨーロピアンなテイストにしたいと早坂さんに相談していましたね。
S: 早坂さんと打ち合わせをしていく中で、框(かまち。建具の枠組みを構成する周囲の枠材のこと)がポイントではないかと教えていただきました。フラットにするのではなく、フチがほしいね、となったんです。フラットだと品よくシャープにまとまりすぎると思っていたので、それだ! と思いました。框の幅を何センチにするか、という細かい話は、夫と早坂さんにお任せしましたが(笑)。何パターンも図面を出していただいて検討しました。おかげさまで使い勝手がよいだけでなく、空間のアクセントにもなっていて、愛着のあるキッチンになりました。
早坂: 積極的にキッチンへのこどわりを言っていただいて、とてもよかったです。当初キッチンはまっすぐのラインでフラットで、と想像していましたが、自分の中にないものが出てきて発見がありました。シンメトリーのシンプルな空間に、程よい温かみがプラスされ、面白い仕上がりになったと思います。
S: 早坂さんは私たちの意見を吸収してくださる感じでした。受け止めてよりよいものにしてくれるんです。そういう頼もしさがありました。
K: この件は積極的に意見交換して決めていきましたが、早坂さんの当初の提案がやはりよい、となることが多かったですね。お互いが妥協する形ではなく、検証した結果、早坂さんの案に戻るといいますか。僕としては、納得感を持ちながら家づくりが進んでいく感じで。
K: はい。そうなんですよね。意匠デザインに秀でた建築家さんって「私の主義はこうで、こういうスタイル」というのがあるように思うのですが、早坂さんはいい感じに落とし込んでくれて。建築家さんの主義ばかりになると、自分たちの家じゃない感じがする場合もあると思います。でも、そういうことは一切ありませんでした。住む人の個性を尊重してくれるようなバランス感でした。
早坂: ありがとうございます。もちろん、これがベストという提案は、プラン全体でも細部でも行ってきましたが、いただいた要望を含めたロジックを意識するようにしています。
K: 僕たちの希望をくみとったうえでの早坂さんのスタイル、という感じかもしれません。僕らではイメージができないアイデアを出していただくことへの驚きや気づきが刺激的で、本当に楽しい家づくりでした。
S: 住んでいる私たちが居心地のよさを感じているのはもちろんなんですけれど、家に来てくれた人が「ものすごく気持ちがいい」と言って帰らないんですよ。そういうふうに喜んでくれて、長々と時間を過ごしてくれるのが、私はとても嬉しくて。あとは、こだわった自分の空間、大好きなキッチンに立つ時間が多いです。作業をしながらでも自然と大開口からの景色が見えて、毎日気持ちがいいですね。
K: 玄関を入ってセンターの階段を上がると、この眺望。そういう一連の時間演出もテーマの家ですので、来客時には毎回お決まりの「わー」という感嘆の声が聞けます。親も「景色なんて暮らしていれば慣れるのだから、坂の上は反対」と家が建つ前は言っていたのに、「ここはいい!」と今では反対したのを忘れているかのようです(笑)。
早坂: それは、設計者冥利に尽きます。
K: そうなんです。日々、居心地よく暮らしているのと同時に、ふと4年住んでいる今でも非日常を感じることがあります。いろいろ検討して決めた、6mのフィックス大窓のおかげですね。四季折々の景色が目の前に広がっているので、旅先の風景とか、眺めのよいレストランとかでも、「自宅のほうがいいな」となるんです。天窓も早坂さんからの提案で、勾配天井にして高さを出していただいたので、30畳弱のフロアとは思えないほどの広さを感じています。
早坂: 登り梁構造(のぼりばりこうぞう。屋根の勾配に沿い、登るように設けられた水平方向の力を支える構造躯体)で、デザイン的にもシンプルになりすぎないようにしました。採光や通風も考えたうえで採用しました。
引っ越しされると聞きましたが、すでに売却済みだそうですね?
K: コロナ後に会社のリモート体制が整ったこともあり、自然やアウトドアに関心があるので、思いきって小淵沢まで引っこんでみるという決断をしました。売却額は、驚きのものでした。新築は住み始めてから価値がどんどん下がりますが、この規模感で木造でと考えると、かなりいい値段がついて。早坂さんのおかげで評価が高くなったことは間違いないです。これは本当にデザインの力です!
S: 何がさみしいって、このおうちから離れることなんです。本当に心にひっかかっているのが、この家です。悲しすぎて。
早坂: そこまで気に入っていただき、また評価していただいて、ありがたいです。しかも家を手放すというときに「市場が認めてくれている」「すぐに住み継いでくれるかたがいる」というのも、うれしいことですね。
K: 「こんなやり方がある」「こういうスタイルがある」と早坂さんから提案していただくときの驚き感は、本当に新鮮でした。この先、家を建てる機会がありそうな後輩に向かって「紹介しようか?」と勝手にプロモーションしています。そのくらい、おすすめです。
S: 早坂さんが洗練されているから、とても楽しく安心して家づくりができました。そういえばこの前、モダンリビングという雑誌の表紙が、早坂さんの作品になっているのを見つけたんですよ。この別荘、うちの家と同じ設計者だ! と勝手に喜んでしまいました。
早坂: そのおうちのかたは、こちらの家を見て僕に相談に来られたんですよ。
K: そうなんですか! それは光栄ですね。
早坂: 邸宅巣箱を設立したばかりのときに手がけたこちらの家は、僕にとっても印象深い住宅です。これからも山の上にある聖堂のように、ずっと住み継がれて残っていってくれたらいいな、と思います。
Words by Nozomi Ogawa / Photography by Shota Nakayama
邸宅巣箱での家づくりのプロセスをご紹介します。鎌倉・逗子葉山は、全国的にみても家づくりに際して、デリケートな配慮が必要になるエリアです。例えばこの地には古くから住まう住民も多く、近隣対策なども非常にデリケートになります。そのため我々は、工事前に設計者自身で近隣挨拶を主導したり(設計事務所としては珍しい)、地元の信頼できる工務店を紹介したりなど、地域性に合わせたプロセスを提供しています。このように邸宅巣箱では、建物ばかりでなく家づくりのプロセス自体もデザインしています。
まだ計画の見通しが曖昧でも構いません。まずは「お問い合わせフォーム」からお気軽にご質問ください。顔合わせの機会をセッティングします。
ライフスタイル、建坪や予算、間取りまで、ざっくばらんにお話を聞かせてください。漠然とした内容でも構いません。そこからエッセンスを汲み取り、ラフプランを描きます。なお顔合わせ当日には、土地情報資料をご持参ください。そして可能であれば、ピンタレストなどで集めた建物イメージや雑誌スクラップもお持ち頂けると、イメージ共有に役立ちます。
土地探しから検討されている場合には、地場の設計者の見地から、候補地のメリットデメリットをお伝えします。崖地(レッドゾーン)・埋蔵文化財包蔵地・古民家改修・不整形地・地下駐車場付きの土地など、鎌倉近域エリアによくある難解建築条件にも豊富な経験があります。
計画全体のおおまかな費用を把握できます。付帯工事・別途工事・設計費・諸費用などをざっくりと想定した資金計画書(坪単価計算による予想工事価格)を提出します。なお住宅ローンの実行タイミングなど、資金繰りについてもご相談ください。
ライフスタイル、建坪や予算、間取りまで、ざっくばらんにお話を聞かせてください。漠然とした内容でも構いません。そこからエッセンスを汲み取り、ラフプランを描きます。なお顔合わせ当日には、土地情報資料をご持参ください。そして可能であれば、ピンタレストなどで集めた建物イメージや雑誌スクラップもお持ち頂けると、イメージ共有に役立ちます。
計画のおおまかな見通しに納得頂けましたら、設計監理契約の準備をします。契約条件・設計料支払い時期などを共有して契約を締結します。設計契約の後に本格的な設計がスタートします。
案件の個性に合わせて編成した専門家チームを紹介します。地元の工務店はもちろん、造園家、解体屋、左官屋などの職人まで、地元で実績のあるスペシャリストを中心に解像度の高いチームづくりをします。
打合せやメールでやり取りを重ねて、計画のアウトラインを詰めていきます。特に構造に関わる間取りと窓の話が主題になります。
構造面の安全性を説明します。我々は経験則だけに頼らず、きちんと構造計算を行って建物の安全性を検証します。そして地盤補強や擁壁の必要性など土地の安全性もしっかり確認し、その結果をわかりやすくお伝えします。
断熱性能を中心に性能面の説明をします。例えば大きな窓をつくると断熱面で不利になるなど、デザイン性と建物性能は反比例する傾向にあります。我々の考えるベストバランスを提案しますので、優先順位をお聞かせください。
外壁、内壁、床など各部位の仕上げを丁寧に決めていきます。フルオーダーだからこそ、土壁、漆喰、左官、木、石などあらゆる素材が採用可能です。素材選びこそ邸宅巣箱の真骨頂なので、風合いや色に拘りのある場合も、満足頂ける提案ができると思います。
照明、コンセント、インターネット配線などの電気設備をはじめ、床暖房設備や音響設備まで、ご要望に沿うように建築設備計画を纏めていきます。
水栓やバスタブなどの必需品から、ガス乾燥機・ワインセラー・サウナなどの奢侈品までお好きな商品を採用可能です。ハウスメーカーのように標準品やオプション品という括りはありませんので、最も気に入るものを組み合わせて頂けます。
建物のデザインに合わせたオーダーメイドのキッチンや家具を提案します。既製品ではできない細かな寸法や仕様へのリクエストを叶えられます。さらに建物に合わせたいものがあれば、テーブルやチェストなど造り付け家具以外であってもオリジナルで製作できます。もちろん所有されている家具を前提に、コーディネートすることも可能です。
建物の特性とオーナーの趣向に合わせて造園家を紹介します。都内で活躍してる作家さん、地元で評判のよい作家さん、どちらも紹介可能です。また反対にオーナー懇意の作家さんを紹介頂くケースもあり、要望に合わせて柔軟に対応しています。
概算見積書を確認頂きます。我々が打ち合わせ内容を反映させた図面をつくり、その図面をもとに工務店がざっくりとした積算を行います。なお工務店は、計画の特性に合わせて実績ある地場業者を紹介することが通例ですが、オーナー懇意の業者を指定頂いても構いません。
概算見積価格と予算にズレがある場合には、打ち合わせで仕様変更などの相談をしながら、金額を調整していきます。そして大まかな目途がついたら、我々が打ち合わせ内容を修正した図面をつくり、その図面をもとに工務店が改めて積算を行います。実現可能性が高まる段階ですので、細かく積算された本見積書が提出されます。この本見積書に了承頂けましたら、工事契約に進みます。
確認申請とは建物が建築基準法などに適合しているか専用機関が審査する制度です。確認申請や関係法令申請は我々が代行しますので、すべてお任せください。またご希望があれば、補助金交付申請など建築基準法以外でもできる限りお力添えします。
工務店と工事契約を締結します。工事契約自体はオーナーと工務店の間で取り交わされますが、締結までのやり取りは我々がすべてサポートします。なお工事費の支払い時期は、契約時・中間時・完成時の3回払いとなることが多いです。
地鎮祭を行い、工事中の安全を祈願します。併せて同日に近隣挨拶も行うことが通例です。オーナー・工務店・設計者の3者で、近隣世帯をまわり、工事のご挨拶と建物概要を説明します。引渡し後の近所付き合いに不便が起こらないよう、できる限り配慮して工事を進めていきます。
古屋付きの敷地の場合には、解体工事が必要となります。ご自身で解体業者を手配頂いても構いませんが、煩雑な手続きに手間がかかるので、不安があれば我々に一任ください。
現場進行中はターニングポイント毎に現場にお越し頂き、見学会を行います。その中でコンセントやスイッチの位置を確認したり、仕上げサンプルを確認したりと、実際の空間のなかで最終的なすり合わせを行います。
設計検査の結果を報告します。建物が完成しましたら、我々設計者の視点、また検査機関の第三者視点で完成状態のチェックを行います。
現場にお越し頂いて、建物の仕上がり状態を確認頂きます。この際に指摘されたチェック項目を解決して、いよいよ引渡しとなります。
入居後は施工店により定期点検が行われます。1年点検には我々も同行して、不具合がないか確認します。また定期点検によらずとも、気になることなどがありましたら適宜対応します。
入居後しばらく経ち落ち着いたら、メディア掲載のため写真撮影や取材をお願いしています。ぜひ素敵な住まいを記録に残させてください